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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)6697号 判決

判   決

東京都港区麻布材木町二四番地

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原告

アルフレツド・W・ブルツクス

右訴訟代理人弁護士

朝比奈新

平沼高明

同都文京区林町七〇番地

被告

加藤兼信

右当事者間の損害賠償請求事件についてつぎのとおり判決する。

主文

被告は原告に対し金二七万〇、八〇〇円及びこれに対する昭和三七年五月八日から支払済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮りに執行することができる。

事実

原告は主文第一、二項同旨の判決並びに仮執行の宣言を求め、請求の原因として別紙記載のとおり陳述し、(立証―省略)た。

被告は適式の呼出を受けながら本件最初の口頭弁論期日に出頭しないが、その提出にかかる答弁書を陳述したものと看做すべく、右によれば、請求棄却の判決を求め、答弁として、請求原因第一、二項の事実は認めるがその余の事実は否認する、というにある。

理由

一、請求原因第一、二項の事実は当事者間に争がなく、いづれもその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認め得べき甲第七号証の一乃至六、原告本人尋問の結果を総合すれば、被告は、

(1)  被告自動車を運転して横浜市戸塚区汲沢町九〇番地先一級国道に差し蒐り、右道路の自己の前方約一〇米を同方向に向い時速約四五粁の速度で進行中の原告自動車の前方に出ようとしたが、右道路が、車輛通行区分帯の設けられてない道路であるに拘らず、右区分帯(二車線)の設けられた道路であると誤認したため、警音器を吹鳴する等追越の合図をすることなく、漫然、時速を約五〇粁の速度に加速して進路を変え原告自動車の左側方を通過しようとした。

(2)  ところが、原告自動車の進路が左方にカーブを画く右道路の状況に従つて若干左側に寄つたので、被告自動車は、原告自動車左側方を通過の際に、右後部フエンダーを原告自動車の前部バンパー左側に接触させた。

(3)  そのため、原告は操縦の自由を失い、原告自動車は右道路を右斜前方約一五、五米進んで緑地帯に乗り上げ、更に約一〇米進んで転覆した。

右の事実を認定することができ、右認定に反する証拠はない。右認定の事実によれば、本件事故は、被告が前記道路を前記のとおり車輛通行区分帯の設けられてある道路と誤認したため、道路交通法第二八条の規定に反して前車たる原告自動車の左側方を追越した過失によるものであることが明らかであるから、被告は原告に対し本件事故による損害賠償義務を負わねばならない。

二、そこで、本件事故による損害の点について検討するに、

(一)  原告本人尋問の結果及びこれそよつて成立を認め得る甲第一号証、第二号証の一、二によれば、本件事故により、原告自動車が請求原因第四項の(一)記載の損傷を受け、原告が訴外東京トヨペツト株式会社に対し右損傷の修理を依頼し、昭和三七年五月八日修理代金一六万六、〇〇〇円を支払い同額の損害を蒙つたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

(二)  原告本人尋問の結果及びこれによつて成立を認め得る甲第三、四号証によれば、本件事故により、原告が背部、左胸部に治癒に至るまで二週間を必要とする打撲傷を受けたこと及び右傷害治療のためインターナシヨナルクリニツクの医師の治療を受け昭和三七年五月七日治療費金四、八〇〇円を支払い同額の損害を蒙つたことが認められ、他に右認定に反する証拠はない。

(三)  原告本人尋問の結果によれば、原告は、本件事故によつて前記傷害を受け肉体的、精神的に相当の苦痛を蒙つた外に、事故の際に頭部を強打したことが原因となつて事故後間もなく両耳とも難聴となり、現在補聴器の使用を余儀なくせられ日常生活に不自由、不便を感じていること、が認められ、これらの事実に、原告本人尋問の結果から認められる同人の年令(五六年)、経歴(バージニヤ州立大学を卒業し弁護士を開業、米国政府機関で国際法を専攻来日、港湾関係の職務に従事、又、国際裁判阿南、小磯両被告人の弁護人となる)職業(弁護士、会社関係の経済法律顧問)その他諸般の事情を斟酌すれば、原告に対する慰藉料の額は原告が本訴において主張する金一〇万円を以てしても不当に高きに失する額とは認められない。

三、以上によれば、被告は原告に対し前記自動車修理代金一六万六、〇〇〇円、治療費金四、八〇〇円、慰藉料金一〇万円合計二七万〇、八〇〇円及びこれに対する最終の損害発生の日である昭和三七年五月八日から支払済までの民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務があるものといわねばならない。よつて、原告の本訴請求は正当としてこれを認容すべく、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、仮執行の宣言について同法第一九六条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二七部

裁判官 高 瀬 秀 雄

請求の原因

一、原告は昭和三七年二月一一日午後六時三〇分頃普通乗用車(トヨペツトコロナ登録番号五め三七七五号、以下原告自動車と称す)を運転して横浜市戸塚区汲沢町九〇番地先一級国道上を藤沢方面から保土谷方面に向い走行していた。

二、被告は自己所有の普通乗用車(ダツトサン登録番号五も九四二八号、以下被告自動車と称す)を運転して前項日時場所において原告自動車の後方を同方向に走行していた。

三、被告は被告自動車を運転して第一項記載の幅員約七メートル、左にカーブしている一方通行の道路にさしかゝつた際、自己の前方約一〇メートルを同方向に向い進行中の原告自動車を追越そうと考え、このような場合自動車運転の業務に従事するものは警笛を鳴らす等追越の合図をするは勿論、前車を左側に避譲させ道路前方上障碍物の有無を十分確かめてからその後部より追越にかゝり、もつて危険の発生を未然に防止すべき注意義務があるのに拘らずこれを怠り、警笛を十分に鳴らすことなく原告自動車の左側への避譲も待たずに、左側追越は法律上禁止せられているのに毎時五〇キロに加速して左側から追越をしたゝめ、原告自動車の前部バンパー左側に被告自動車右後部フエンダーを接触させ、そのため原告は操縦の自由を失い原告自動車はハンドルを右にとられて右側土手に衝突し転覆した。

四、被告の右過失行為により原告は左記損害を蒙つた。

(一) 原告自動車の損害

自動車のフロントウインドガラス、ポンネツト、ルーフパネル等の損害金 一六六、〇〇〇円

(二) 原告の身体に対する損害

本件事故により原告自動車が転覆したゝめ原告は左胸部等を打撲し、加療二週間を要する傷害を負つた。

(イ) 治療費 四、八〇〇円

(ロ) 慰藉料 一〇〇、〇〇〇円

六、よつて本訴を提起し前記損害金合計二七〇、八〇〇円及びこれに対する損害発生の日である昭和三七年五月八日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

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